会社員として働きながらワンルームマンションを経営されている方から代々の土地を守るために賃貸マンションや賃貸アパートを経営されている方まで、不動産経営の規模は様々ですが、不動産を貸すことで得られる所得は不動産所得に該当し、確定申告する必要があります。
ここでは、不動産賃貸業に関わる確定申告についてご紹介します。
これから不動産賃貸業を始める方、今年から不動産賃貸業を始めた方は『個人事業の開業方法』をご一読ください。
不動産賃貸業とは
まず、不動産賃貸業とは、自身が所有している不動産(土地や建物など)を他の人に貸して不動産収入を得ることで不動産賃貸業が成り立ちます。
不動産賃貸業は所有資産の貸付により収入を得る事業で、他の事業のように事業主が積極的に労働を行うことで収入を得るものではない点で不動産所得と事業所得は区分されています。
不動産賃貸業は、賃借人がいるあいだは安定した収入が得られるメリットがありますが、退去したのち次の賃借人が決まるまではその分の収入がなくなるといったデメリットもあります。
また、不動産賃貸は投資としての性格も強く、購入時や建築時には利回りというものにも着目していきます。
そのため、個人事業主や会社員の方が副業として不動産投資をすることは少なくありません。
そして、相続や贈与などで土地を取得された方にとっては、毎年かかる固定資産税の負担が大きく、アパートなどの賃貸不動産を建築して土地にかかる固定資産税の負担を軽減したり、将来の相続税対策として賃貸不動産を建築するといったこともあります。
様々な活用方法がある不動産賃貸ですが、不動産賃貸で得た所得は毎年1月15日から3月15日までの間に所得税の確定申告を行い、同時に納税を済ませなければなりません。
不動産賃貸業において得られる入金で所得税の計算上収入として計上すべきものと収入として計上しないもの、そしてその収入を得るために支出した金額で経費となるものと経費とならないものを次に紹介します。
不動産所得の収入について
不動産所得は、収入から経費を差し引いて計算します。
不動産賃貸業では様々な名目で入金がありますが、このうち所得の金額を計算する上で、収入になるものと収入にならないものに分けられます。
収入にならないものは言葉の通り税金の計算上の収入には計上されません。
1.収入になるもの
(1)賃料
不動産を賃貸することで入ってくる収入で不動産収入の代表です。
(2)共益費・管理費
賃料とは別に設定されているもので、共用部分の電気代や管理・維持費を賃借人が一部負担するため設定されているものです。一般的には賃貸借契約書において定額で定められています。
(3)礼金
賃借人より契約時に受け取る一時金で、賃借人の退去時等に返還しないものと契約で定められているものはその年の収入となります。
不動産仲介業者がこの礼金を仲介手数料と相殺してオーナーへ入金がないこともありますが、契約金の明細書や賃貸借契約書を確認して礼金の有無を確認しましょう。
(4)更新料
賃貸借契約が満了した後、引き続き契約を更新する際に賃借人がオーナーに支払われるものです。
こちらも(3)と同様に不動産業者が更新事務手数料と相殺してオーナーへ入金がない場合や賃貸借契約で更新料の取り決めがなかったりする場合がありますので、賃貸借契約書で更新料の有無を確認しましょう。
更新時の更新料は、更新前の賃貸借契約書に「賃貸借契約を更新する場合は新賃料の○ヶ月分を支払う」と記載されていることもあるので、更新契約前の契約書のチェックが必要です。
(5)電柱敷地料
賃貸アパートの敷地や自宅の敷地の中に東京電力やNTTなどに電柱を設置させる目的で土地の一部を貸している場合には、電柱敷地料や土地使用料といった名目で入金があります。
(6)名義書換料
土地を借地権を設定させて貸している場合などで、賃借人がその借地権を売買したり、転貸した場合に賃借人からオーナーに支払われる承諾料です。
(7)その他
上記の他に、不動産賃貸業に付随して受け取る金銭等で、返還不要のものは収入として計上されます。
2.経費となるもの
(1)税金
次の税金は経費に計上できます。
固定資産税・都市計画税、不動産取得税、個人事業税、印紙代、消費税等
次の税金は経費になりません。
所得税、住民税、固定資産税・都市計画税のうち自用の部分
(2)損害保険料
賃貸不動産にかけた火災保険や地震保険は経費になります。
長期一括払いや前払いをしている場合は、その期間を按分して当年分に対応する金額を計算する必要があります。
(3)管理費
不動産業者等に管理を依頼している場合や入居時・更新時の仲介手数料等は経費になります。
(4)支払報酬
確定申告を税理士に依頼した場合の報酬や不動産の登記にかかった司法書士報酬は経費となります。
(5)減価償却費
賃貸不動産の購入・建築時に支払った金額はその全額を支払った年の経費にはならず、その購入・建築時の金額を建物や建物附属設備等に区分し、それぞれの耐用年数に応じた期間で毎年の経費に計上していきます。
(6)修繕費
建物は年々老朽化していきます。建物としての機能を保つための維持費や修繕費は経費となります。
室内のクロス張替えや敷地内の除草等が該当します。
ただし、部屋の一部を改築(間取り変更等)した場合や砂利敷きの駐車場からアスファルトを敷いた場合の支出は、金額にもよりますが修繕費として費用計上されず、資産として一度計上し、毎年の経費として減価償却により計上されます。
(7)借入利息
賃貸不動産を借入れにより取得した場合には、その借入れにかかる利息は支払利息として経費に計上されます。
ただし、借入金の元本部分は経費にはなりません。
(8)その他
不動産賃貸業に関するその他の費用で事業に関係するものは経費に計上することができます。
例えば、不動産業者への御中元・御歳暮代、不動産賃貸に関する書籍・図書費、賃貸不動産分の町内会費などが該当します。
不動産所得の青色申告特別控除65万円の適用について
不動産所得や事業所得を得る個人事業主が青色申告を行うことで受けることができる青色申告特別控除額ですが、事業所得に関しては複式簿記により帳簿付けを行えば65万円の特別控除を受けることができますが、不動産所得でこの65万円の控除を受けるためには、複式簿記による帳簿付けに加えて一定の要件があります。
その要件は、その不動産貸付事業が、事業的規模と認められることが必要となります。
実質的に事業的規模とはどの程度から言うのか判断が難しいため、形式的に「5棟10室基準」を用いて実務上では判定されることが多いです。
5棟10室基準とは
事業的規模か否かの判定の際に用いられる「5棟10室基準」はアパートやマンションといった共同住宅の貸付であれば、その貸付ている室数が10室以上あること。また、戸建住宅の貸付の場合は、その貸付ている棟数が5棟以上あることが要件となります。
棟や室と建物が前提とされていますが、駐車場の場合には、貸付ている駐車スペース5台分が共同住宅の1室分とみなしてこの基準が準用されます。すなわち、駐車場経営をされている方は50台分の駐車スペースで5棟10室基準を満たすことになります。
アパートやマンションを不動産会社1社にサブリースにより一括貸しをしている場合も、その独立した部屋数が10室以上ある場合は事業的規模の要件を満たします。
不動産事業は様々な入金や支出があり、その金額も多額になることも多いため、経費になるものは確定申告で忘れずに計上することで税金を少なくすることができます。また収入についても計上漏れがあると税務調査で指摘された場合、延滞税や追徴課税が課されることもあり余計な出費となってしまいます。適正に帳簿付けを行い、顧問税理士より適切なアドバイスを受けることで大きく節税することができるでしょう。